宇宙のステルヴィア

宇宙のステルヴィア FOUNDATION 8 [DVD]

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せっかくなので長文感想を書いておこう。


・「敵」が居ない物語
この物語はロボット物としては特殊で、いわゆる「敵」というものが存在しませんでした。前半のグレート・ミッション、後半のジェネシス・ミッションともに「現象」が敵のようなものであり、防ぐべき対象でした。ですので、いわゆる「敵」というものが存在するお話であれば、その「敵」を倒すべく、主人公が努力していくストーリーを描けばいいわけですが、この作品ではそういったことはできません。ロボット物としては異色だなぁと思いました。また、同時に、ある種「リアル」だなとも思いました。(僕達が日常生活をしてて「極悪人」に出会うことってないですよね。)
・「努力」と「才能」―「越えられない壁」―
ではどのようにストーリーを描いていくのか。この作品のテーマは「能力差」これに尽きると思います。たとえば主人公の片瀬志麻は物語前半、パイロットとしての「才能」を開花させていくわけですが、後半では恋人の光太くんとの「能力差」に愕然とし、「努力」しても追いつけない「越えられない壁」に対して焦りや苛立ちを感じます。この「能力差」に対する焦り・苛立ち・あるいは諦観は登場人物みんなが誰かに対し感じていることであり、特に物語後半ではそれが原因で登場人物たちの関係がギクシャクしはじめます。(特に、町田初佳さんは強烈でしたね…。)
・本当の「個性」とは何か
さて、このお話に私が感動したのはそういったネチネチした鬱展開もそうなのですが、最終的にそれらを登場人物たちが解決してしまったところですね。主人公しーぽんはお母さんの「だからあなたがいる」という呼びかけで自分を取り戻し、あえて最終ミッションでは操縦を犠牲にして情報処理に特化した旧システムを選びます。また登場人物たちみんなも、「自分にできること」を考え、それぞれの道を歩みだします。この過程は本当に感動的でした。特に前述の町田初佳さん…。最終話でのやよいとの仲直りには涙を流さずにはいられませんでした。私が思うに、「個性」とはかくあるべきだと思います。簡単に「個性重視」などと謳う風潮が今現在ありますが…、限界まで努力したり、目標に届かない悔しさを知り、相手を妬んだり恨んだり…。それを知った上での「個性」でなければ何の意味も無いと私は思うのです。
・「努力する才能」について
さて、もう一つ感じたのが「努力する才能」について。ラスト2話で限界まで努力するしーぽんと、相変わらず才能を持て余している光太くんとの対比がすごく良かったですね。「自分の道」を見つけたしーぽんが、練習に練習を重ね、ジェネシス・ミッションでは常に落ち着いて「自分の役目」を果たそうと冷静でいるのに対し、天才の光太くんは、本番になって冷静さをどんどん失っていくという。その姿は光太くんの才能に嫉妬していた頃のしーぽんにそっくりでした。たしかに、パイロットとしては光太くんはずば抜けて優秀だったんだろうけれど、「努力する才能」に関しては、しーぽんの方が秀でていたんだと思います。
・で、なぜこんなことを書くかというと
私自身が、人生の中で悩んだり、人を恨んだり嫉んだりしたのが「能力差」の問題であり、この作品に共感することがとても多かったからです。例えば大学受験では「越えられない壁」を知り、「才能」を有する人を妬んだり羨ましがったりしましたし、音楽活動を止めた時も自分に「努力する才能」が欠けていると実感しました。しかし、私はこの登場人物たちのように未だ自分の弱さを直視できないでいます。それを認めつつも…、「自分はまだやれるのではないか」とか「その気になれば…」なんて言い訳を自分で作ってしまってます。ですので、「自分の弱さを認め、その上で個性を創造していく」この物語は私にとって「理想のシナリオ」でもあり、「最悪のシナリオ」でもあるのです。しかし、どちらにしても「現状の自分ではありえないifストーリー」であり…、私の胸を打ちます。


…というわけで、激オススメ。
自分を見直す機会になった良い作品でした。